園長だより 10月号

どう考え、どう行動するかが大切!
~行く言葉が美しければ、来る言葉も美しい~

 園長 中村 洋志

何となく朝夕の風に少しずつ秋の気配を感じる季節になりました。朝の新鮮な空気の中で、子どもたちや保護者の方々とお会いし、「おはようございます」とか「いい天気ですね」とかの言葉を交わすだけで、気持ちの良い一日を過ごすことができます。有り難いことに、多くの方は気持ちのいい挨拶をしてくださいます。まず大人が手本を示せば、子どもたちも爽やかな挨拶を交わすようになります。「挨拶」や「言葉遣い」は,そのことだけで気持ちを左右することもあります。職員はもちろんのことですが、保護者も子どもたちも含めて、お互い気持ちのいい挨拶の行き交う保育園になればと考えています。

以前、韓国の知人の方から「行く言葉が美しければ、来る言葉も美しい」という諺を教えていただいたことがあります。「自分の発する言葉が、人を気遣う優しく、美しい言葉であれば、人から返ってくる言葉も、優しく、美しいものになる。」という意味だと思いますが、この諺を教えてくれた時の知人の表情とともに、今でもこの言葉を鮮明に思い出すことができます。普段の生活の中でも、何気ない言葉が、人を喜ばせたり、悲しませたりすることはよく経験することです。自分自身を振り返ると、ついつい感情的になり、その逆の言葉を発することがあります。美しい言葉というのは、単に上品な表現ということだけではなく、「人に正しく伝わる言葉」のことだと思います。正しく、美しい言葉は、人を勇気づけ、好ましい人間関係をつくるのに役立ちます。今年の甲子園球場での高校野球は、慶應高校の107年振りの優勝で終わりましたが、惜しくも敗れた仙台育英高校の須江監督が選手たちに伝えた「人生敗者復活戦」という言葉が印象的でした。これから先を逞しく生き抜いていく選手たちへのはなむけの言葉として胸に響きました。厳しいけれども優しい言葉です。「優しい言葉一つで、一日中温かい」という言葉もあります。少しでも人を動かすような言葉を発することができればと願っていますが、自分自身は反省の毎日です。

世の中では、いくら自分の考え方が正しいと思っていても、読み聞かせその思いが相手に正しく伝わるとは限りません。中国の韓非の著書「韓非子」の中に、「非知之難也、処知則難也」という言葉があります。「物事を知ることは難しいことではない。難しいのは、知識や情報を得た後で、いかに行動するかである」というような意味ではないかと思いますが、人は、「何を言ったかではなく、何をしたか」に関心があり、その人の実際の行動を見て評価します。人には感情があり、いくら科学が進歩たとしても、受け止め方は変わらないからです。だから、いくら自分が正しいと思っている考え方であっても、言葉ではなく、どんな考えのもとに、どう行動するかで、周りの人は、その人を理解し、信頼します。だから、子どもたちは、大人の「いう通りではなく、する通りにする」のです。

言葉は、コミュニケーションを円滑にしたり、自らの思いや気持ちを伝えたりする有効な手段であり、行動を起こす源にもなります。その人の言動が周りの人に影響を与え、気持ちまでも左右することがあります。特に私たち大人の言動は、知らず知らずのうちに、大なり小なり影響を与えています。子どもたちの手本として、まず私たち大人が率先して正しく伝わる優しい言葉を用いて、子どもたちに向き合うようにしたいものです。